VOL5(番外編)

「2001年 年末奮闘記」

ここ数年、クリスマスを一人パチンコ屋で過ごしているという、とても寂しい男がいました。
この物語はそんな彼が“今年こそは彼女を作って二人で聖なる夜を祝うんだ!!」と
誓いを立てかけずり回る  2001年 年末奮闘記である。

「聖なる夜に向かって」

第一章(年上の天使)


秋の終わり、冬に差し掛かろうとしている頃、そのコンパは行われた。
今回のコンパのことは男前のTさん(バイク仲間)にはふせていた。
理由はもちろんTさんが来たならば、間違いなく彼の一人勝ちになるからだ。
モテないコンビKou&I(バイク仲間)の絶妙なる作戦である。

このコンパで僕は一人の年上の天使と出逢うこととなる。
彼女はお世辞にもズバ抜けた美人とはいえないが、僕のハートをときめくかせる雰囲気を持ち合わせていた。

しかし毎度のことだが内気な僕は天使とあまりしゃべる機会がないままコンパの一次会は終了してしまった。

次は二次会のカラオケである。
僕はなんとしてもこの二次会のカラオケで天使とのコミュニケーションをはかりたい、
そして電話番号を聞き出したいと思っていた。
石橋の熱唱する“長渕”なんか耳に入らず、
頭の中は“天使の電話番号、メールアドレス、電話番号、アドレス、電話番号、アドレス、スリーサイズ…”と一種の錯乱状態であった。
本を見て曲を探しているフリをしながら考える、“一体どうやって電話番号を聞き出せばいいのか?”
しかしやはりここでもヘタレの僕は天使の電話番号を聞けずに二時間のカラオケは終了してしまった。

いよいよ解散の時となって僕は自分を震いだたせた。「今しかチャンスはないぞ! 
この時を逃したら二度とチャンスはやって来ないぞ! 自分の殻を破るんだ! 
ヘタレの人生なんてまっぴらだ!! がんばれ俺!」僕は自分に言い聞かせながら天使のもとへと駆け寄った。

僕の姿に気づいた天使は、「今日は楽しかったです。有り難うございました。」と話かけてくれているのをさえぎるように、
僕は「携帯の番号教えて下さい!」と詰め寄った。
さすがにいきなりの事だったので天使も断る理由が見つからなかったのだろう。
「えっあっはい…」と渋々教えてくれたのでした。


第二章(始まりはツリーの下で)

クリスマスを三週間後に控えた頃、何回かの電話のやりとりで僕は年上の天使とデー
トの約束をとりつけた。
デート当日までまだ日があったので、僕は“関西ウォーカー”や“インターネット”を駆使してデートのプランを立てるのに忙しく、寝不足の日々を送っていた。

デート当日8時起床。昨夜は緊張のため、ほとんど眠れず、バクバクする心臓を抑えるのに苦労した。
今日が初めてのデートだが、僕はひょっとしたら、あんなことになったり、こんなことになったり、ひょっとしてひょっとするとこ〜んなことになるかもしれないと思い、
万が一に備えて新しいパンツにはきかえる。(どんな万が一だ?)
待ち合わせは午後2時だったので、僕はとりあえず散髪しに出かけた。(かなりの意気込みである)

待ち合わせ場所は京都駅ビル内にあるクリスマスツリーの前だ。
まさに2人の始まりにふさわしい場所である。 
何年後かして「僕達2人が初めてデートの待ち合わせしたのは、このツリーの前だったね。 
あの頃の君はまぎれもなく天使だったよ。ニヤッ」などと言える日が来るのが僕の夢であった。
2時ジャスト。まるでドラマのワンシーンのように天使がツリーの前に現れる。
僕の頭の中に「ラブストーリーは突然に」が流れ出す。

「待った?」天使は笑顔で話しかけてくれた。
「いっいや、いっ今来たとこです。はい。」緊張のためややドモリながら僕は返事を返した。
(実際は30分も前に着いていて、天使としゃべる練習を何度もしておいたのだが、とても本番に弱い僕でした。)


さて今回のデートコースは南禅寺から哲学の道へと散策する“ちゃんとKouに案内できるのか?コース”である。
ちなみに言っておくが、僕はそういった情緒あふれる名所めぐりは、決して嫌いではない。
“ほんまかぁ〜? 無理して天使に合わせてんのとちゃうん?”などと周りから言われそうだが、ウソではない。
むしろそういった場所の方が僕の性格に合っているのだ。
(本当だってば!)

まず最初に訪れたのは、紅葉で有名な永観堂である。残念ながら、紅葉の見ごろは過ぎていた為、
かき集められた落ち葉から美しく色染ていた木々を思い描く事しかできなかった。

永観堂から南禅寺へと歩く、ここ南禅寺は僕が高校時代に友人達と“語りの場”としてよく来ていた。
「Kou! お前3組のヒロスエの事好きなんだって?」
「バッバカなこと言うなよ!お前こそ茶道部のユウカと一緒にホテルから出てきたってクラスの女子が言ってたぞ!」
などとバカな話をしていた思い出深い場所である。
あれから約10年の歳月が流れていた為、僕の記憶の中では哲学の道と南禅寺はつながっていると思い込んでいた。
しかし実際にはつながっておらず来た道をを引き返して哲学の道へと向かわなければならなかったのだ。
大きな時間のロスと大きな体力消費である。
この時点でやや天使の顔に影が見えはじめる。

今日の僕は大きな作戦を抱えていた、それは“どさくさにまぎれて天使と手をつないでやるぜ作戦”である。
作戦の内容はというと、哲学の道で「あまり端を歩くと川に落ちるよ。」などと言いながら
さりげなく手をつなぐというなんともスケベちっくな内容である。 
前日の晩にその作戦の事を女性の友人に話したら、“きっしょー!!  最悪や!!絶対嫌われるから止めとき!”と忠告されていたが、
僕は聞く耳を持たなかった。

かなり長い距離を引き返してきて哲学の道に着いた。
さて、作戦実行である。まずは天使に哲学の道の川側を歩いてもらうことにしなければならない、
そこで僕は真っ先に道側を歩いた。
すると天使は僕の隣りを歩かずに後ろを歩くではないか。

僕は思わず「並んで歩こうよ!」と天使に声をかける

すると天使は「でも…道が狭いから危ないと思う…」

「えっ?! あ、そっそうだよね…危ないよね。じゃっじゃあ僕が川側を歩くね」トホホ…

この作戦(ミッション)は失敗に終わった。



第三章「予定は未定」


その後も長い距離を歩いていたため、日頃運動不足の僕は足がもつれてしまい、よろけて天使の肩にタックルを食らわしてしまったりなど、散々であった。

しかしめげずに僕は今日の最大の目標である「天使とクリスマスを過ごす為の(その1)」を実行に移す。
まずはウィンドウショッピングをしながら、今、天使が興味を示す物などをチェックしていく、
天使のクリスマスプレゼントのヒントとなるものを探す為である。
「なるほど、天使は手袋を欲しがっているみたいだな」とか「どちらかというと明るい系の色が趣味みたいだ」などと
僕は芸能リポーターなみの観察力でチェックしていく。

次に「天使とクリスマスを過ごす為の(その2)」を実行する。
作戦の内容とは、さりげなく天使にクリスマスの予定を聞き出し、あまり重くとられないように軽い気持ちで当日にデートに誘うといった作戦である。
しかしここで僕はかなり緊張していたのだろう、“さりげなく聞き出すのだ”と自分に言い聞かせているのにかかわらず、
「ところでクリスマスの予定はどないなん?」といきなり直球を天使にぶつけてしまった。
天使は少々困惑した顔で「今のところ別に予定はないけど…」と答えた

“天使はクリスマスの予定がない、予定がない…”僕の頭の中を駆けめぐる。
その時僕の中で何かが切れてしまった…

「あっそうなん! 予定ないんや! それやったら俺と会おうな! なっ! なっ!
 会っとこう! 会っとこう! 会っとたらええやん! なっ! なっ!」

まさに典型的なダメ男である。“重くとられないように軽い気持ちで誘う”という作戦が
“ただの軽い男”になってしまったのだ。気づいた時には既に遅かった。

天使は「えっ…あっ また… 考えておきます…」と返事を濁したのでした。


夕食は河原町まで戻ってきて“地鶏の石焼き”の店へ
お店には事前に予約を入れておいたので、スムーズに席につくことができ、料理も大変良かったので、
この時は天使に対してかなり名誉挽回をすることが出来き、それなりにいい雰囲気で過ごせた。

結局その日のデートでは次の約束を得られないままお別れすることとなったのでした。


デートから帰ったその日の夜、僕は早速“今日はとても楽しかったです”と天使にメールを入れた
しかしその日を最後に天使との連絡は途絶えたのだ。


第四章(最後のメール)


二日後・三日後と電話をかけるのだが、いっこうに天使は電話に出ない。

デートした日から五日後の事である。突然一通のメールが届いた。
受信箱を見てみるとなんと天使からではないか!
僕はおそるおそるメールを開いて見ると、題名が「ごめんなさい」となっていた。
しかし今まで天使とのメールのやりとりで「ごめんなさい」という題名は何回かあったのだ、
というのは“忙しくて電話できなくてごめんなさい”や“返事が遅れてごめんなさい”などということがあったので、
今回もそうなんだろうなと思いメールを読んだ。
しかし残念ながらメールの内容も「本当のごめんなさい」であった。


「この間はどうもありがとうございました。
半日一緒にいたのでコンパの時より今中さんのことがわかった気がします。
残念ながらこの先のことは考えられません。
お互いこれから良い出逢いを求めてがんばりましょうね!」 天使


このメールを読んだ僕がよく自殺をはからなかったものだ… と、いうよりもまだ告白もしていないのに振られてしまった僕って一体…

もしも僕が江戸っ子ならば、「“この先のことは考えられない?”てやんでぃべらぼうめ!」と言いながら目の前のちゃぶ台をひっくり返すとこであるが、
残念ながら僕は気弱な関西人であるので、「そうですか…残念です…これからお互い良い出逢いがあるといいですね。」と
気弱なメールを送り返しただけだった。

 
こうして僕の恋は冬を越せずに終わりを告げた。

                             おわり
   
                                                                                                   Vol6